徒然なる日常

田舎の学芸員がいろいろと感じたことを徒然と思い付くままに。

高松塚古墳を掘る@飛鳥資料館

展示を見て備忘録的に、簡単ながら感想を記そうと思いつつ、1年以上放置してしまった。展示を方々に見に行っているのに…。

ということで、明日香までこの展示を見てきた。

www.nabunken.go.jp

高松塚古墳の石室解体調査を通しての成果を紹介するもの。
飛鳥資料館はこういった調査方法などについての展示をおこなっており、考古学についてなかなか関心の持てない者としても興味深いもの。

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調査時の図面や撮影カメラも展示。デジタル化していく様子も分かる。

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石室上部の剥ぎ取りと地震痕跡(下)。版築という古墳の築造方法について初めて知った。

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展示室の始めにある作業体制と調査目的について記した黒板。
奈文研、東文研、橿考研、明日香村教委での分担状況と、調査目的を記しており、展示目的の導入的役割を果たしている。

出土遺物も展示されていたが、展示としては石室解体調査の過程を紹介することが主であり、観光客には少し拍子抜けする展示かも知れない。
とはいえ、どのように解体工事をおこない、石室がどのような状態であったのかなどをまとめて展示していたので、具体的な作業がわかり、いわゆる文献史学の者としては興味深い展示だった。

図録(1100円)も販売されており、内容もさることながら装丁も少し凝っている。

「奈良さらし」展@奈良県立民俗博物館

4月から6月までそれなりに展示を見たのに更新せず。

それらはおいおい思い出したら書くということで、今日見に行った展示について。

「奈良さらし」展@奈良県立民俗博物館

「奈良さらし展」を開催します!/奈良県公式ホームページ

近世、南都随一の産業として地域経済を支えた「奈良さらし」。
本展示では、従来の社会経済史的視点ではなく、奈良さらしそのものの魅力に迫りたい
と思います。高級麻織物のブランドとして全国にその名を知られ、「麻の最上は南都なり」とも賞されながらもこれまで殆ど顧みられることのなかった「布」そのものに焦点をあて、
麻織物文化の視点からのアプローチを試みます。

 

 民俗博物館だけではなく、寧楽美術館と連携するとのこと。民俗博物館じたい行ったことがあるのか覚えてないし、車で行きやすいし、ということで行ってみた。

 

展示そのものは原材料からさらしを製造する過程、近世のさらしを利用した衣類などが展示されていた。

しかし、資料などについての情報量が乏しく、どういう展示なのかは正直よく分からない。

数点ではあるけども近世文書が出ていたが、どういう意図で展示されているのか、どういう意味の物なのかの説明がない。正直がっかりした。

もう少し見る人に伝えるような工夫がほしかったところ。

 

常設も見たけど、長期にわたって展示が変わっていないと思われる(特にパネル)。ちょっとリニューアルしても良いのではないかと思った次第であります。

夷酋列像と狭山藩北条氏展

昨日は休みを取り、朝一から『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』を見る。

毎月1回くらい、和歌山方面の調査お手伝いをしており、土曜日がそのはずだった。しかし、その予定がなくなったこともあり、国立民族学博物館へ。

夷酋列像国立民族学博物館

特別展「夷酋列像 ―蝦夷地イメージをめぐる 人・物・世界―」

みんぱくに行くのは初めてだったけど高速を使って1時間かからず。

北海道博物館、国立歴史民俗博物館を巡回してのトリ。フランス・ブザンゾン美術考古博物館に所蔵されている「夷酋列像」を展示、模本や作者である蠣崎波響関連の資料、描かれているアイヌの装束や北太平洋社会での交易なども含めた展示。

じっくりと資料を見る事ができたが、全く知らなかった世界の一端を窺う事ができ興味深い展示だった。

残念だったのは後期に展示される資料の箇所になにも展示されていなかった事。展示品入れ替えなどで対応できなかったのかなあと思う次第。

図録は2000円。写真で部分拡大もあり良いものだけど、拡大写真が粗いような気がする。

狭山藩北条氏戦国大名小田原北条五代の末裔@大阪狭山市立郷土資料館

大阪狭山市立郷土資料館 新しい特別展・企画展

こちらを回る時間がありそうだったので、ついでに。

大阪狭山市立郷土資料館の展示ではあるけど、狭山池博物館の特別展示室での開催。

狭山池築造1400年などに絡めての展示で、狭山藩主の出自である小田原北条氏に焦点を当てた展示。

北条早雲・氏綱・氏康・氏政・氏直の肖像画や発給文書など神奈川方面から借用してのもので関西ではなかなか見る事のできないものを見る事ができたのはよい。

後半は狭山池に焦点を当てたものであったけど、こちらは池守の展示で度々使用されていたもの。最後は幕末維新期の北条家に焦点をあてたもの。

面白かったのだけど、写真展示されていた資料が少し気になった。

というのも、その写真は昭和40年代に旧町史編さん時の撮影資料で、現在は所在不明だそうである。

以前、二上山博物館で見た鋳物師の展示でも同じようなものがあった*1

おそらく日本各地で同様の資料はたくさんあるだろうと想像されるし、自分の足下でも起こっているかと思うと背筋が寒くなる次第*2

しかし、写真を撮っていて残っていた事である程度の内容などが分かったのは、まだ良いほうなのかもしれない、などと考えた次第である。

図録は900円。価格の割には立派なのでお買い得だと思う。

*1:こちらは火事で焼失したということだった。

*2:市史編さん時の資料が残っていない

春画展と京博

さっさと行かないと行かないままだと思ったので、朝から京都に。

春画展@細見美術館

shunga.emuseum.or.jp

開館してすぐであれば余裕だろうと思ったら甘かった。

館に入るのに10~15分程度並んだだろうか、ようやく入館するも展示室が混んでいてじっくりと見る事はできない。

展示室自体が狭い事もあるかと思うけど、どの部屋も入り口付近が混雑していて進まない。

展示室内の係員が「自由観覧なので空いているところから見て下さい」と声かけするもなかなか見れない。

第1展示室のものはほぼきちんと見る事ができずに泣く泣く先を急いだ。

第2展示室も混んでいたがそれなりに見る事はできた。

一番じっくりと見る事ができたのは第3展示室。

がらがらではないもののじっくりと見る事がようやくできた感じ。

ここで喜多川歌麿の「歌まくら」と葛飾北斎の「喜能会之故真通」をじっくりと見ることができたので良かった。

 結局じっくり見る事ができたのは1つの展示室でしかなかったが、展示室が狭いというところは一つの問題なんだろう。あと、展示室間の移動が階段を利用しての昇降であることか。展示室間を自由に行ったり来たりしにくいというところが混雑の原因の一つかと思った。

とはいえ、「春画」に多くの人が興味を示しているからこその混雑も当然ながらある。

しかし、「エロ」というイメージがあるのは当然ながら、浮世絵としてもいいものが展示されているという点からこういう所からでも近世絵画などなどへの興味が進めば良いかと思う。*1

帰りに図録(4000円)を購入。思っていたよりも版が小さかったが、分厚い。見応えあり。

京都国立博物館

細見美術館を見た後、バスにて南下し七条へ。

昨年末来おこなわれている研究会で近世の妙法院方広寺周辺の話を聞いたのでそれらの寺院をみることと、京都国立博物館で行われている特集陳列「獅子と狛犬」を見る事が目的。

www.kyohaku.go.jp

まあ、平成知新館を見たかったのもある。

平成知新館は広かったが見応えある展示ばかりだった。

目的の狛犬は当然ながら、漆芸、陶器、書跡などなど思っていたよりも良かった。

中世絵画の部屋は空いていたが、雪舟天橋立図」をじっくりと見る事ができたし、近世絵画の部屋では円山応挙長澤蘆雪などの絵がじっくりと見る事ができたしで結構満足。

新館なので照明などの使い方も良く、こういうのを職場に反映させたいところだけど…。

ここの1部屋くらいの広さが春画展の展示室だともう少しゆっくりできたかなと思うところ。

 

京都文化博物館の「実相院門跡展」も面白そうだったけど、ちょっと疲れたのでパス。

実相院門跡展 —幽境の名刹— | 京都府京都文化博物館

 

*1:Facebookに前売り券を買った旨を書き込んだところ、エロ絵なる書き込みがあった。反論したいところだけど面倒なので放置している。

カネ・人・こころ@歴史に憩う橿原市博物館

年末から諸事情で自由に使える車が無かったので出歩けなかったけど、先週末にようやく新しい車が来た事とこの展示が気になっていたので見学。

橿原市/平成27年度冬季企画展「カネ・人・こころ」

展示タイトルそのままでお金の展示。

発掘で出てきた皇朝十二銭や富本銭から近世の藩札、慶長大判、現代のプレミアム商品券や電子マネーと様々なお金を展示。

実際に利用していたものから贈答品まで、用途なども説明しており解説ボランティアの方も見ていて楽しいとの事。

土器などの遺物中心の博物館なのでモノがしっかりした展示になるけど、少しは文書も、と思うが専門の人いないようだし仕方がないか。*1

図録(300円)も販売しているので購入して、どういう研究を参考にしているのかなと思って開いてみたら、参考文献なし…。これはあった方が良いと思わずにいられない。

ハンズオンとして千両箱を持ち上げてみよう、というコーナーがあり、勧められたのだけど持ちませんでした。*2

 

*1:橿原市今井町を抱えているので文書専門の人がいてもいいのだけどいないのが実情。奈良県内広範の問題

*2:解説ボランティアの方に勧められたのだけど、江戸博だったかで持った事があるので遠慮した。

絵図の企画展を見る

この秋は絵図を扱った展示がちらほらと行われている。

北摂のほうの展示も気になるけど、先日南大阪で行われている絵図関係の展示を見てきた。

以下は簡単な感想。

近世狭山池絵図-水下農民の狭山池改修史@狭山池博物館

まずは、狭山池博物館のこの展示。

大阪府立狭山池博物館

池守田中家文書を使った展示はよく行われているけど、これはその文書群から近世の狭山池改修に関係する絵図類を展示したもの。

狭山池だけではなく、西除川・東除川流域も含めた水利を描いた絵図も含み、狭山池西樋の改修について結構大きく取り上げられていた。

絵図だけで関連する文書などあるとうれしかったのだけど、絵図の状態も良く満足できるものであった。

絵図には西樋・東樋の近くにそれぞれ「樋役人三拾軒」という形で家並が描かれていたが、これらの存在が気に掛かった。大阪狭山市史を読めば分かるのかも知れないが。

展示では述べられていないが、図録では「池守田中家文書の伝来と成立」という文章があり、展示のいい補足になっていると思う。

 

堺復興-元禄の堺大絵図を読み解く@堺市博物館

特別展「堺復興―元禄の堺大絵図を読み解く―」 堺市

国立歴史民俗博物館が所蔵する元禄2年堺大絵図が初めて堺で展示されるという事で行われたもの。

元禄2年の堺大絵図は朝尾直弘「元禄二年堺大絵図を読む」*1で詳しく紹介されているが、そこで紹介された絵図そのもの。

 非常に大きなもので10枚に分割されて伝わってきたもののうち8枚を展示し、その地区ごとの特徴を紹介していた。

修復が施されているとはいえ、折り目部分の剥落など損傷も大きいのだけど、十分に見応えのある絵図であった。

地域によって大きい家屋敷ばかり集まっているところもあれば、小さい家屋敷が密集しているところなど違いがあるのがみてとれた。

ただ、展示を見てその違いは説明されてなかった気がする。

大小路に沿った町は南北を面にした町となってるのに対し、多くの町は東西を表とした町並みになっていたことや、前に述べた家屋敷のあり方の違い。

こういった所が説明されていなかったかと思う。

もう少し細かく絵図を見た説明がほしかったのと、朝尾氏の研究成果への言及が展示では見られなかったのが残念。*2

近世堺の都市史研究の進展度合いが進むともう少し詳しい紹介がされたのだろうと思う。

 

なんやかんや言いつつも両方の展示は面白かった。特に堺大絵図をあれだけまじまじと見る事ができたのは本当に良かった。両展示とも図録が販売されているので、お勧めしたい。

 

*1:『朝尾直弘著作集 第六巻 近世都市論』所収

*2:図録では言及されていた

鋳物師の里 五位堂@二上山博物館

ブログを作ってみたのはいいけど、なにを書くか思案中。

だったけど、とりあえず見た展示の感想とかから始めてみようと思う。

 

で、一番近い日に行った展示から。

二上山博物館は「旧石器文化を紹介する石の博物館」ということで、なかなか足がむかなかった。

二上山博物館 | 香芝市公式サイト

そんな中、鋳物師の展示をするということで見学に。

香芝市の下田、五位堂は鋳物産業が盛んだったらしく、鋳物師関係の資料が市指定文化財となっている。これまでも展示されていたらしいが、今回は特別展。

 

展示品は鋳型と真継家からの許状が中心。

文書目当に行ったのだけど、文書が少なく少々残念。

しかし、これには理由があり所蔵していた方のお家が火災にあったとのことで、一部焼失してしまったらしい。幸いな事に自治体史編さん時に一部写真を撮っていたということで、それらはパネルに。

鋳型は並ぶと圧巻。鋳物師をこういったモノから考えた事がなかったので興味深い。

下田・五位堂の鋳物師が作成した各地の鐘も紹介されており、各地の資料とつきあわせるといろいろ分かるのだろうかと考えさせられた。

 

内容は興味深かったのだけど、気になったのはパネルの字の大きさ。

情報量を詰め込みすぎて小さくて読みづらい。

ここだけに限らず、よく見られるのだけど長々と説明しても観覧者はなかなか読まない。できるだけ字数を少なく、ポイントを抑えた文章がいると思う。

 

まあ、これを抜きにしてもいい展示だったと思う。

せっかくなので常設も見たのだけど、香芝市の歴史年表は近世以降スカスカであった。

「旧石器文化」の博物館に求めるものではないだろうけど、気になったところである。