徒然なる日常

田舎の学芸員がいろいろと感じたことを徒然と思い付くままに。

和歌山方面の展示をみていろいろと考える。

台風24号も近づいているなか、和歌山方面の展示を見に行く。

和歌山の文化財を守る@和歌山県立博物館

企画展「和歌山の文化財を守る」:和歌山県立博物館

近年増加する文化財盗難の被害にあったものの取り戻せたものを紹介し、高校・大学との連携でレプリカを作成し、それを安置するという活動が紹介されている。

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例えばこれらはネットオークションや古美術商のカタログに掲載されたもの。
これらは地道なパトロール(といってよいのか)により発見されたものであろう。
と同時に、過疎化によって知る人も少なくなったお堂などから盗難された仏像などがこのような形で売買されていくのかと思うと背筋が寒くなる。
過疎化は自分の地元でも喫緊の問題であり、対処すべき問題であるが、どのような方法をとることができるのかを考える必要がある。

実際に展示という形で突きつけられるとなかなかつらいものである。

 

 南葵文庫と紀州徳川家伝来の美術品@和歌山市立博物館

和歌山市立博物館

http://www.wakayama-city-museum.jp/document/20180915-1021press.pdf

紀州徳川家が創立した私設図書館南葵文庫の資料と散逸した紀州徳川家伝来の美術品を紹介したもの。
南葵文庫は関東大震災後に東京帝国大学に蔵書が寄贈されたが、その伝来書籍や慶喜揮毫の扁額、閲覧室で利用されていた机、いすなど当時の面影を知ることができるものが展示されていた。

個人的に興味をもったのは紀州徳川家伝来の美術品。
紀州徳川家は当主の経済観念が薄かったこともあり、3度にわたり伝来の美術品などを売立ている。
そのため、紀州徳川家伝来の美術品は散逸することとなったが、この展示ではどのような経緯で所有者が変わったのかを示しつつ紹介している。
元は一つだった資料群がバラバラになってしまう経緯など興味深い。
売立目録である程度の復原はできるのかもしれないが、やはり台帳的なものがなかったのか、残されていないのかは気になるところ*1
徳川黎明会を創立し、現在まで伝える尾張徳川家と対比せずには見ることはできなかった*2
とはいえ、紀州徳川家の伝来品を集め、紹介するという試みは大変面白かった。
図録1000円。

 

*1:例えば土佐藩主山内家では「御道具根居」という台帳が残されており、明治期の所有物をある程度把握することはできる。

*2:尾張徳川家について | 美術館について | 名古屋・徳川美術館