徒然なる日常

田舎の学芸員がいろいろと感じたことを徒然と思い付くままに。

和歌山方面の秋の展示

職場に和歌山方面の展示の招待券が来ていたのでざくっと。

・「道が織りなす旅と文化」@和歌山県紀伊風土記の丘

和歌山県立紀伊風土記の丘 公式ページ

世界遺産紀伊山地の霊場と参詣道」追加登録を記念して開催された展示。
熊野信仰がどのように広がっていったのか、といった事を軸に宗教者(主に三十三度行者)の広がりや信仰から観光への変化を紹介している。
熊野信仰の広がりという視点で高知のいざなぎ流や愛知北設楽郡の花祭といった民俗行事が紹介されており、興味深く見た。
実際に利用していた諸道具など三十三度行者の資料もおもしろいものだった。
道成寺の開帳関係資料が展示されているが、道成寺にとっての開帳の持つ意味はもう少し検討が必要だなと思う次第*1
展示資料のキャプションには資料名と年代しかなく、どのような資料なのかという解説が少し欲しいところであった。
図録あり(1500円)

 

・「道成寺日高川道成寺縁起と流域の宗教文化ー」@和歌山県立博物館

特別展「道成寺と日高川」:和歌山県立博物館

昨年まで縁あって道成寺の文書調査のお手伝いをしていた。今年度はどうなっているのか分からないけど。
そういうこともあって道成寺には少し興味をもっており今回のこの展示は楽しみにしていた。
重要文化財道成寺縁起」の修復が終わったこともあり、道成寺縁起の全場面の公開と道成寺の仏像群が展示の中心。
仏像は正直よく分からないが、奈良時代から連綿と道成寺が存在したことが改めてわかるもの。また、日高川流域にも視野を広げており道成寺を中心に日高川流域を理解することができるのかな、と考える。
道成寺縁起は重文のものだけではなく、絵解きで利用されてきたものも展示されており、道成寺における絵解きの重要性が感じられる。
近世の資料は少なかったが仕方が無い*2
ただ、展示されていた近世文書はとても興味深いもので、近世の道成寺を考える上で重要となるものと思う。
一つは浅野幸長寄進状で、これで近世の寺領5石が確定したもの*3
もう一つは寺領や縁起類を売却した証文。近世初頭の道成寺のあり方が分かるもので、当時道成寺には東之坊(別当)と西之坊があり、東之坊から西之坊に売り渡したもの。
周辺村の百姓が連印している事を少し深めて考えたいところである。
和歌山県博の特別展のキャプションはいつも参考にしようと思いつつもできず、それは今回の展示をみて改めて感じた。こういうところはどんどん吸収していきたい。
図録あり(2000円)*4

 

・「幕末の紀州藩」@和歌山市立博物館

和歌山市立博物館

大政奉還150年ということで、幕末の紀州藩に焦点を当てた展示。
幕末の情勢が分かる資料から、14代将軍となった家茂、そのあとに藩主となった茂承関係の資料、幕末の紀州藩関係の人物と時代の流れと言うよりは人物の紹介に寄せた展示の様に感じた。
幕末の情勢のところで、菊池海荘肖像や本居大平肖像があったが彼等がどのような位置づけにあるのかといった説明がなく少し唐突な感じがした。
家茂が紀州に戻ってきたときに利用した風呂桶が、その寺で宝物となり伝わっていくのがなかなか面白く、ほかにも天誅組に対処するために出兵した関係資料も興味深い。
いろいろな人物紹介としては面白いが、幕末の紀州藩の位置づけなどをもう少し前に出しても良かったような気がする。
というか、薩長からではなく紀州藩・幕府からの視点で、というのであればそれが欲しかった。
展示資料は興味深い物が多く、その点は個人的に満足。
図録あり(1000円)。期間限定で陸奥宗光エコバッグに納められている。

*1:参考となっているのは某大の卒論。

*2:資料は膨大にあり目録は未完成。

*3:道成寺で寺領がこれだけだと堂舎の修理もままならない。なので、絵解きを聞きに来る参詣客からの賽銭は重要な収入源であり、頻繁に出開帳をおこなうことになると考えている。周辺村の支援もあったと考えているけど、これは資料次第。

*4:図録をパラパラ見てたら大昔に書いた文章が参考文献としてあげられてた。