徒然なる日常

田舎の学芸員がいろいろと感じたことを徒然と思い付くままに。

「至宝をうつす」展と「保存と修理の文化史」展などなど

2018年になって初めての展示観覧は京都で次の展示。
10日くらい前にみたものなので、大分忘れてるところもあるので備忘録的に。

www.bunpaku.or.jp

便利堂がおこなってきたコロタイプ複製の歴史と複製による展示。
コロタイプという技法も興味深いものであったが、法隆寺金堂壁画と高松塚古墳壁画の複製は圧巻であった。
高松塚古墳壁画は昨秋に飛鳥資料館で関係する展示をみたこともあり、期せずして壁画保存に関する展示をみたことになる。
図版などに利用されてきたコロタイプ複製であるけど、このような技術のおかげて高精度な複製が残されていることは頭に残しておきたい。

 

www.bunpaku.or.jp

つづいてはこの展示。
昨年開催された「日本の表装」展が良かったので、今回も期待してみた。
期待に違わぬ展示で大変勉強になった。
資料がどのように修理され寺院や地域社会で伝承されてきたのか、を展示。
これは来てよかった。
文化財行政が観光へシフトされようとしているが、地域に残る文化財が先達によってどのように伝えられてきたのか、改めて認識させられるものであった。

この他に大谷大学博物館、本能寺宝物館に立ち寄り図録を購入。
本能寺宝物館で購入した「大信長展」図録*1はなかなか良いもので掘り出し物。

*1:執筆者が某史料編纂所の方で安心できた。

「おん祭り」展と「ニッポンの写実」をみる@奈良

職場に招待券が来ていたので、先週末に奈良方面に出かけ展示をみてきた。
2017年最後の展示観覧となるはず。

www.pref.nara.jp

チラシをみて面白そうだったので行ってみた。
牙彫や自在といった最近マスコミでも取り上げられている物がどういうものなのか、気になっていたというのもある。実際にみると取り上げられるのが分かる。
しかし、実際にみて感心したのは写実画で、一見すると写真のように見えるが絵であるものや、実際に撮影した写真を絵にしたものなど現代では様々な技法で写実表現がなされているようである。
正直な話、これくらいしか分からない。

 

そのあとは、恒例のおん祭りの展示。

www.narahaku.go.jp
毎年恒例なので、基本的にはあまり変わらないのだけど、注目するテーマが替わっている。
昨年は奈良奉行所で、今年は中世の社家史料と文献よりであった。
この展示は春・秋の特別展や正倉院展よりも会場は小さい。
が、今年は例年よりも小さく、展示資料も少なめ。
というのも2018年春に春日大社の展示をおこなうので、それに出ない物で展示と相成ったからのようである。*1
展示資料の半数以上は中世文書で、文書専門の者としては興味深いものであった。
とはいえ、展示資料はおん祭りに関係した部分がほとんどであったはテーマがテーマであるので仕方が無いが少し残念。もう少しいろいろな物をみたかった。
あと、文書資料に釈文がつかないのはいつもながら残念。読める人は良いけど、読めない人にはどのような文字が書いているのか示すのも必要だろうと思う。
図録は1500円。ちょっと高めか。

*1:会場に入ったところで別のお客さんが、「いつもより少ない」と聞いていたことの返事による

「天下泰平と高槻城」をみる

先週末、職場に来ていた招待券を活用すべく、高槻方面へ下記の展示を見に行ってきた。

www.city.takatsuki.osaka.jp

サブタイトルにもあるように高槻城築城400年記念の展示。

今城塚古代歴史館の第1会場では「徳川の城郭と上方の築城」として、絵図を中心に高槻城主となった家が関係する城を中心に紹介したもの。
石垣などの関係道具も展示されており、どちらかというとモノに焦点が当てられた展示という印象。
様々な城絵図も興味深いものであったけど、大坂城に関係するところで山内忠義書状が展示されていたのは興味ぶかいのと同時に懐かしくもあった。
寛永元年からの第二期修築を国元ヘ知らせたもので、材木役という言葉が見える。

しろあと歴史館の第2会場では「徳川の上方支配と大名たち」として、譜代大名に焦点を当てた展示。
家康発給の禁制、文禄検地帳などなど結構な文書が高槻には残されていることが分かり興味深い。
「永井家文書」が結構展示されていたが、内容もさることながら文書群の全体像が気になって仕方がなかった。
城主の肖像画も多く展示されていたが、永井尚政肖像画がかなり大きいように感じた。
文書が中心と言うこともあり、結構堪能できた。

招待券を持って行っていたものの、この日は「関西文化の日」であり両館とも無料。
ということもあってか、結構な人で賑わっていたのは、零細なうちと比べてもうらやましい限りである。

図録は500円とお手頃。

和歌山方面の秋の展示

職場に和歌山方面の展示の招待券が来ていたのでざくっと。

・「道が織りなす旅と文化」@和歌山県紀伊風土記の丘

和歌山県立紀伊風土記の丘 公式ページ

世界遺産紀伊山地の霊場と参詣道」追加登録を記念して開催された展示。
熊野信仰がどのように広がっていったのか、といった事を軸に宗教者(主に三十三度行者)の広がりや信仰から観光への変化を紹介している。
熊野信仰の広がりという視点で高知のいざなぎ流や愛知北設楽郡の花祭といった民俗行事が紹介されており、興味深く見た。
実際に利用していた諸道具など三十三度行者の資料もおもしろいものだった。
道成寺の開帳関係資料が展示されているが、道成寺にとっての開帳の持つ意味はもう少し検討が必要だなと思う次第*1
展示資料のキャプションには資料名と年代しかなく、どのような資料なのかという解説が少し欲しいところであった。
図録あり(1500円)

 

・「道成寺日高川道成寺縁起と流域の宗教文化ー」@和歌山県立博物館

特別展「道成寺と日高川」:和歌山県立博物館

昨年まで縁あって道成寺の文書調査のお手伝いをしていた。今年度はどうなっているのか分からないけど。
そういうこともあって道成寺には少し興味をもっており今回のこの展示は楽しみにしていた。
重要文化財道成寺縁起」の修復が終わったこともあり、道成寺縁起の全場面の公開と道成寺の仏像群が展示の中心。
仏像は正直よく分からないが、奈良時代から連綿と道成寺が存在したことが改めてわかるもの。また、日高川流域にも視野を広げており道成寺を中心に日高川流域を理解することができるのかな、と考える。
道成寺縁起は重文のものだけではなく、絵解きで利用されてきたものも展示されており、道成寺における絵解きの重要性が感じられる。
近世の資料は少なかったが仕方が無い*2
ただ、展示されていた近世文書はとても興味深いもので、近世の道成寺を考える上で重要となるものと思う。
一つは浅野幸長寄進状で、これで近世の寺領5石が確定したもの*3
もう一つは寺領や縁起類を売却した証文。近世初頭の道成寺のあり方が分かるもので、当時道成寺には東之坊(別当)と西之坊があり、東之坊から西之坊に売り渡したもの。
周辺村の百姓が連印している事を少し深めて考えたいところである。
和歌山県博の特別展のキャプションはいつも参考にしようと思いつつもできず、それは今回の展示をみて改めて感じた。こういうところはどんどん吸収していきたい。
図録あり(2000円)*4

 

・「幕末の紀州藩」@和歌山市立博物館

和歌山市立博物館

大政奉還150年ということで、幕末の紀州藩に焦点を当てた展示。
幕末の情勢が分かる資料から、14代将軍となった家茂、そのあとに藩主となった茂承関係の資料、幕末の紀州藩関係の人物と時代の流れと言うよりは人物の紹介に寄せた展示の様に感じた。
幕末の情勢のところで、菊池海荘肖像や本居大平肖像があったが彼等がどのような位置づけにあるのかといった説明がなく少し唐突な感じがした。
家茂が紀州に戻ってきたときに利用した風呂桶が、その寺で宝物となり伝わっていくのがなかなか面白く、ほかにも天誅組に対処するために出兵した関係資料も興味深い。
いろいろな人物紹介としては面白いが、幕末の紀州藩の位置づけなどをもう少し前に出しても良かったような気がする。
というか、薩長からではなく紀州藩・幕府からの視点で、というのであればそれが欲しかった。
展示資料は興味深い物が多く、その点は個人的に満足。
図録あり(1000円)。期間限定で陸奥宗光エコバッグに納められている。

*1:参考となっているのは某大の卒論。

*2:資料は膨大にあり目録は未完成。

*3:道成寺で寺領がこれだけだと堂舎の修理もままならない。なので、絵解きを聞きに来る参詣客からの賽銭は重要な収入源であり、頻繁に出開帳をおこなうことになると考えている。周辺村の支援もあったと考えているけど、これは資料次第。

*4:図録をパラパラ見てたら大昔に書いた文章が参考文献としてあげられてた。

高松塚古墳を掘る@飛鳥資料館

展示を見て備忘録的に、簡単ながら感想を記そうと思いつつ、1年以上放置してしまった。展示を方々に見に行っているのに…。

ということで、明日香までこの展示を見てきた。

www.nabunken.go.jp

高松塚古墳の石室解体調査を通しての成果を紹介するもの。
飛鳥資料館はこういった調査方法などについての展示をおこなっており、考古学についてなかなか関心の持てない者としても興味深いもの。

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調査時の図面や撮影カメラも展示。デジタル化していく様子も分かる。

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石室上部の剥ぎ取りと地震痕跡(下)。版築という古墳の築造方法について初めて知った。

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展示室の始めにある作業体制と調査目的について記した黒板。
奈文研、東文研、橿考研、明日香村教委での分担状況と、調査目的を記しており、展示目的の導入的役割を果たしている。

出土遺物も展示されていたが、展示としては石室解体調査の過程を紹介することが主であり、観光客には少し拍子抜けする展示かも知れない。
とはいえ、どのように解体工事をおこない、石室がどのような状態であったのかなどをまとめて展示していたので、具体的な作業がわかり、いわゆる文献史学の者としては興味深い展示だった。

図録(1100円)も販売されており、内容もさることながら装丁も少し凝っている。

「奈良さらし」展@奈良県立民俗博物館

4月から6月までそれなりに展示を見たのに更新せず。

それらはおいおい思い出したら書くということで、今日見に行った展示について。

「奈良さらし」展@奈良県立民俗博物館

「奈良さらし展」を開催します!/奈良県公式ホームページ

近世、南都随一の産業として地域経済を支えた「奈良さらし」。
本展示では、従来の社会経済史的視点ではなく、奈良さらしそのものの魅力に迫りたい
と思います。高級麻織物のブランドとして全国にその名を知られ、「麻の最上は南都なり」とも賞されながらもこれまで殆ど顧みられることのなかった「布」そのものに焦点をあて、
麻織物文化の視点からのアプローチを試みます。

 

 民俗博物館だけではなく、寧楽美術館と連携するとのこと。民俗博物館じたい行ったことがあるのか覚えてないし、車で行きやすいし、ということで行ってみた。

 

展示そのものは原材料からさらしを製造する過程、近世のさらしを利用した衣類などが展示されていた。

しかし、資料などについての情報量が乏しく、どういう展示なのかは正直よく分からない。

数点ではあるけども近世文書が出ていたが、どういう意図で展示されているのか、どういう意味の物なのかの説明がない。正直がっかりした。

もう少し見る人に伝えるような工夫がほしかったところ。

 

常設も見たけど、長期にわたって展示が変わっていないと思われる(特にパネル)。ちょっとリニューアルしても良いのではないかと思った次第であります。

夷酋列像と狭山藩北条氏展

昨日は休みを取り、朝一から『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』を見る。

毎月1回くらい、和歌山方面の調査お手伝いをしており、土曜日がそのはずだった。しかし、その予定がなくなったこともあり、国立民族学博物館へ。

夷酋列像国立民族学博物館

特別展「夷酋列像 ―蝦夷地イメージをめぐる 人・物・世界―」

みんぱくに行くのは初めてだったけど高速を使って1時間かからず。

北海道博物館、国立歴史民俗博物館を巡回してのトリ。フランス・ブザンゾン美術考古博物館に所蔵されている「夷酋列像」を展示、模本や作者である蠣崎波響関連の資料、描かれているアイヌの装束や北太平洋社会での交易なども含めた展示。

じっくりと資料を見る事ができたが、全く知らなかった世界の一端を窺う事ができ興味深い展示だった。

残念だったのは後期に展示される資料の箇所になにも展示されていなかった事。展示品入れ替えなどで対応できなかったのかなあと思う次第。

図録は2000円。写真で部分拡大もあり良いものだけど、拡大写真が粗いような気がする。

狭山藩北条氏戦国大名小田原北条五代の末裔@大阪狭山市立郷土資料館

大阪狭山市立郷土資料館 新しい特別展・企画展

こちらを回る時間がありそうだったので、ついでに。

大阪狭山市立郷土資料館の展示ではあるけど、狭山池博物館の特別展示室での開催。

狭山池築造1400年などに絡めての展示で、狭山藩主の出自である小田原北条氏に焦点を当てた展示。

北条早雲・氏綱・氏康・氏政・氏直の肖像画や発給文書など神奈川方面から借用してのもので関西ではなかなか見る事のできないものを見る事ができたのはよい。

後半は狭山池に焦点を当てたものであったけど、こちらは池守の展示で度々使用されていたもの。最後は幕末維新期の北条家に焦点をあてたもの。

面白かったのだけど、写真展示されていた資料が少し気になった。

というのも、その写真は昭和40年代に旧町史編さん時の撮影資料で、現在は所在不明だそうである。

以前、二上山博物館で見た鋳物師の展示でも同じようなものがあった*1

おそらく日本各地で同様の資料はたくさんあるだろうと想像されるし、自分の足下でも起こっているかと思うと背筋が寒くなる次第*2

しかし、写真を撮っていて残っていた事である程度の内容などが分かったのは、まだ良いほうなのかもしれない、などと考えた次第である。

図録は900円。価格の割には立派なのでお買い得だと思う。

*1:こちらは火事で焼失したということだった。

*2:市史編さん時の資料が残っていない