徒然なる日常

田舎の学芸員がいろいろと感じたことを徒然と思い付くままに。

和歌山と京都の展示に駆け込む

先週、今週と展示の最終日に駆け込む形で展示を見てきた。
ちょっと時間たっているので簡単なメモ。

和歌山県立博物館「仏像と神像へのまなざし」展

近年、盗難文化財対策などの活動を活発に行われているが、本展示もその一環。
高校・大学との連携でのレプリカ制作の行程も面白かったが、明治期の鑑査状、新納忠之助による修復など初めて知る話も多く興味深かった。
今年初めに京都文化博物館で行われていた古社寺保存法の展示とも関連し、わが職場の展示でも参考となるものであった。

最終日ということもあってか盛況。

和歌山市立博物館「写真に見る和歌山市の歩み 1889-2019」展

写真に見る、とあるように写真資料を中心に和歌山市の歩みを振り返る展示。
写真だけではなく、絵図なども展示されており良い意味で期待を裏切られた。
ぶらくり丁などの繁華街の変遷が写真で展示されていたが、現在の衰退ぶりが際立ってしまい物悲しくもある。
また、和歌山市内にかつてあった丸正百貨店、高島屋和歌山店の資料展示もされており興味深いものであったが、役所内に多くの写真が残っており、それらが移管されているのがうらやましくもある。
過去に写真類を集めた冊子を販売しているために図録はなかったのが残念。

龍谷ミュージアム因幡平等寺」展

museum.ryukoku.ac.jp

そして、昨日はこの展示が最終日だったので駆け込み。
烏丸高辻にある因幡平等寺にスポットを当てた展示。
近世文書も展示されており大変面白かったのでいくつかあげてみる。


平等寺の境内絵図

近世の平等寺境内絵図が展示されていたが、境内借屋の展開がはっきりと描かれていて大変興味深かった。
展示では高島屋初代の義父が借屋であることが描かれていることが指摘されていたが、境内の周囲に借屋が取り囲むように広がっているのが都市内部の寺院として面白い。
また、芝居小屋が設けられていたこともわかり、この絵図は大変興味深い*1
展示では開帳などと関連させていたが、名所図会ではそのような描かれ方はしていなかったので、この展開過程は気になるところ。

高島屋との関連

高島屋初代義父の借屋があったこともあってか、高島屋との関連は深いようである。
涅槃図が展示されていたが、箱裏書には創業家である飯田家からの寄付である旨が記されていた。
また、高島屋史料館の所蔵資料も展示されており、ここらへんは高島屋としてもう少し注目してとりあげてほしいところ*2

展示を見た後に、現在もある因幡平等寺に行ってみた。

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因幡平等寺

現在では絵図に描かれている境内域はなく、本堂廻りのみであるが、常夜灯の位置からそれなりの境内域であったことが分かる。
提灯の真ん中は高島屋であり、現在もかかわりを持っていることがうかがえる*3


*1:関連する資料として竹田からくりの願書があり。

*2:三井や住友まではいかなくでも、近世から続く老舗として。また企業アーカイブとしても気になる。

*3:烏丸通側には高島屋の号が入った灯篭が残っている。

東京をめぐる~その2

前日とは打って変わって快晴。

ということで、朝1からここへ。

fujiko-museum.com

1度見てみたかったのです。
小田急で登戸に出て、そこから直通バス。アジア系の人多い。
入館時間指定の予約制なので、入るまでに並ぶも館内はあまり混雑せず。

藤子・F・不二雄の生涯と作品を展示しており、当然ながら知っている、詠んだことのある作品ばかり。*1
特別展も開催されており、キテレツ大百科ドラえもんの原画を使って同じような道具が出ていることを比較したもの。
キャプションはほぼないのだけど、入館者には必ず音声ガイドが渡されるので、それを聞きながら展示を見ることになるので問題はない。

展示自体はあっさりと見ることは可能。
屋上などにドラえもんなどのオブジェがあるので、そこはなかなか興奮する。

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きれいなジャイアンミュージアム一押し。

子供連れだと楽しさもまた倍増でしょう。

 

このあと新宿に戻り、新国立競技場を眺めた後、行ったことないなと思いここへ。

www.meijijingugaien.jp

明治天皇の誕生から崩御の間の出来事を描いた日本画・西洋画が展示されている。
教科書などに乗っている大政奉還や小御所会議の絵なども。
各絵画はかなり大きく見ごたえあり。

 

最後はここに。

www.zojoji.or.jpここも前から来たかったところ。
お目当ては当然「台徳院霊廟模型」。
空襲で焼失してしまい、写真でしか残されていなかったものの模型が英国ロイヤル・コレクションとして保管されており、それが貸与というかたちで展示されている。
色彩や柱の装飾などが精密に再現されており、見に来てよかったという感想しかない。
徳川家御霊屋とのセット券もあるのでお勧め。
しかし、御霊屋に建っている看板を見ると近世の増上寺がいかに大きかったのかがわかる。

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近世の寺域と現在の寺域。ピンクはプリンスホテル

ということで、今回はここで打ち止め。
来年はオリムピックということもあり、宿泊費の高騰などもあるだろうから当面の上京は無理かな。
今回は特別展などはほぼ観なかったが、なかなか良い時間を過ごせた2日間でありました。



*1:個人的には21エモンをもう少し推してほしかった

東京をめぐる~その1

10連休は3分の2出勤で、その分の休みを利用して先日東京に。
企画展・特別展は終了しているところが多いのもあり、これまで訪れたことのないところを中心にめぐる計画をたてて東へ。
1週間たってしまっているのでうろ覚えになっているとこもあるけどメモ。

ということでまずはここに。

www.minato-rekishi.com

当初の計画では品川で降車し、東禅寺泉岳寺をみてからここに来る予定だったけど、大雨のため目黒まで出て地下鉄で最寄り駅まで。

旧公衆衛生院を改装した建物で、無料スペースは基本的に撮影可能。

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港区郷土歴史館

「海とひとのダイナミズム」「都市と文化のひろがり」「ひとの移動とくらし」といった3つのテーマで展示を分けているけど、考古から近現代に至るまでの展示。
個人的に面白かったのは「都市と文化のひろがり」。
港区域の近世を扱った展示になるけど、藩邸がひろがる地域であり、増上寺をはじめとする寺院が存在するなど、展示でみて初めて区域を実感できた。*1
常設の図録が欲しかったところだけど、まだないとのことでほかの図録を購入。

 

つづいてはここ。

www.ukiyoe-ota-muse.jp

大雨なのもあり、一度見てみようかとも思い訪問。
神宮前という土地柄もあるのか、外国人が多い。
浮世絵専門の美術館であるけど、趣がある展示室。

 

この後、まだ雨は降り続いていたため、今後の予定などを踏まえここへ。

www.intermediatheque.jp
日本郵便株式会社と東京大学総合研究博物館が協働で運営をおこなう公共貢献施設が丸の内JPタワー内にオープンしました。」とのこと。
動物の骨格や植物標本などが中心の展示。
医学部に掲げられていたという歴代教授の肖像画が興味深く、名前を記した板には年代が入っているが皇紀の年代。戦前に制作されたものであることがわかるとともに、これらの肖像画がひとつにまとめられていたことが医学部の権威的なものを示しているのか。

 

最後はここへ。

www.meiji.ac.jp

ここは一度見てみたいと思いつつもなかなか訪問する機会がなく、ようやく訪れる。
展示室は地下で、博物館常設展示室の入り口は明治大学の大学史の展示。
校舎の変遷だけではなく、有名人の卒業生の遺品の展示もされていた。*2

常設展示は商品・刑事・考古の三部仕立て。
刑事を楽しみにしていたが、高札や法令、近世の拷問具レプリカなどの展示が中心。

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近世の拷問具レプリカ

内藤家文書とかの展示を観たかったけど、こればかりはしょうがない。
館内はボランティアの方が案内されていたがどのような方なのかを聞きそびれた。

 

この日の行程はここで終わり。
神保町をのぞきつつ宿に向かい、夜は友人と会食したのち、神保町でビール。

 

 



*1:関西人には港区がどこからどこまでなのか、正直よくわからない

*2:例えば植村直己

「藤田美術館」展@奈良国立博物館と「骨ものがたり」展@飛鳥資料館

前回更新してから展示を見たのに更新怠ってしまった…。

さて、世間は10連休だったけど、職場はお仕事。
その代わりの休みを飛び飛びに取る予定で、早速展示を見てきた。

国宝の伝道 藤田美術館展@奈良国立博物館

www.narahaku.go.jp

数ヶ月前から曜変天目のポスターもあったので興味を惹かれたので観覧。
数年前に「三蔵玄奘絵」の展示をやっていたはず。

展示室に入るといきなりの行列。曜変天目を間近でみるには30分並ぶとのこと。
後ろからなら並ばなくてもいいとのことだったので、後ろからみたけど文様も光具合も見えたので並ばず。
照明の加減もあってきれいなのだけど、自然光だとどうなるのか気になるところ。*1
全体は「曜変天目茶碗と茶道具」「墨跡と古筆」「物語絵と肖像」「仏像」「尊像と羅漢」「荘厳と法具」「仏典」「面と装束」「多彩な美の殿堂」といった構成で藤田美術館の所蔵品を展示している。

まあいろいろあるのだけど、藤田伝三郎らがどのように収集を進めたのか、もとはどこの所蔵だったのか、という所をもう少し分かる様にしてもらえると良かったと思う*2

 

「骨ものがたり」@飛鳥資料館

www.nabunken.go.jp

 帰りに気になってた上記展示も見る。

サブタイトルに「環境考古学研究室のお仕事」とあるように研究室のお仕事を紹介した展示。土器とかではなく、出土した動物や魚の骨、貝殻などを扱う部署。
「出土する」「探し出す」「同定する」「観察する」「考察する」「記録する」という章立てで、発掘現場から報告書にまとまるまでの課程を紹介している。

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展示室は写真撮影可能。全体的に研究室再現していて面白い。



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研究員の仕事場再現。会期中に実際にここで仕事をする姿を「展示」するとのこと

予想以上に楽しかったので満足。400部限定(1200円)という図録も購入。
こういう展示があるから春の飛鳥資料館は面白い。

*1:茶室で実際に利用する時の条件での見え方で展示して欲しいと思った

*2:国立博物館だと厳しいよね、というのが正直な印象。

「古社寺保存法の時代」@京都文化博物館などを観る

2019年もこんな感じで展示の感想などメモしていく所存。

ということで、ここ数年楽しみにしている京都文化博物館での展示をみることから展示観覧のスタート。

文博の前座というわけではないけど、その前に2つ展示をみる。

特集展示「初公開!天皇の即位図」@京都国立博物館https://www.kyohaku.go.jp/jp/project/emperor_2018.html

霊元天皇の即位図が屏風仕立てになっており、どのような人物が出ていたのかとともに民衆が儀式を見学している様子をみることができ、興味深く鑑賞。
個人的に楽所が演奏したりしているのか気になったのだけど、描かれていなかった。

 

つづいては岡崎に移動して、この展示。

www.momak.go.jp

この時代背景を知っているともう少し楽しめたのかもしれない。
後半に出てきたポスターなどがもう少しあると個人的には満足だったかも。

 

で、目的地。

www.bunpaku.or.jp

古社寺保存法を軸に近代の文化財保存をとりあげたもの。
「日本の表装」「保存と修理の文化史」とこの時期の一連の展示は面白い。
「集古十種」や行政文書*1の展示は個人的に次の展示の参考としたいところ。
日本美術院から現在の美術院への流れなど修復関係にも触れているのは興味深かった。
京都の社寺の事例が中心だったけど、これは奈良だとどうなるのかが気になるところ。
来年度はどのような展示になるのか今から楽しみ。

 

*1:今回の展示では京都府行政文書が多く利用されていた

「時をかける文書」展@いずみの国歴史館と観て考えたこと

この秋は自分の展示などあり、他の館の展示をなかなか見れず。
観た展示についても感想書けなかった。

先週に終わった展示だけど、なんとか見に行けたのが表題の展示。

www.city.osaka-izumi.lg.jp

和泉市の近世』刊行を記念しての展示で文書資料中心。
座にも注目した展示で興味深いものであった。
よく見る「泉州方陣屋之図絵」は思っていたよりも大きいことなど論文などからはなかなかわからないものだと改めて思う。

内容は興味深いものだったのだけど、気になった点が。
文書資料がほとんどを占めていたけれども、文書の釈文が皆無だったこと。
釈文のパネルだけでなく、配布物でもなかった。
パネルに『市史〇〇頁』と記載があったので、市史参照ということか。
ちょっと観覧者に不親切かなと感じた*1

文書資料の展示パネル

この展示をみて、考えたのは文書資料展示においての補助パネルの存在。
文書資料の展示には補助パネルが結構必要になると思う。
解説パネル、釈文、読み下し文…、資料そのものよりもパネルの方が大きくなる。
個人的には、解説パネルと釈文は置くようにしている。
これ以上置くと展示資料ではなく、パネルを見せてるような感じになるから。
先日終了した展示は長い書状が多かったのもあり、釈文パネルを置くスペースがなかったので、配布物とした。
文書資料はいわゆる「くずし字」で記されているので、なかなか読むことができない。
これは土器など考古資料とは異なり、楽しむのにハードルが高いものだと思っている。
その足掛かりとして釈文パネルを作って、少しでも理解してもらえればと考えている。

よその館でみたのは、展示している資料の写真パネルを作成し、その写真の中に釈文を記したもの。
これだとどこにどの文字が書かれているのか一目瞭然。
しかし、実際の資料は観ないのではないか、といつも思う。

と、考え出すときりはなく、試行錯誤を繰り返していく必要があるのだろう。

*1:和泉市の近世』そのものは面白いです。内容も取り組みも。

和歌山方面の展示をみていろいろと考える。

台風24号も近づいているなか、和歌山方面の展示を見に行く。

和歌山の文化財を守る@和歌山県立博物館

企画展「和歌山の文化財を守る」:和歌山県立博物館

近年増加する文化財盗難の被害にあったものの取り戻せたものを紹介し、高校・大学との連携でレプリカを作成し、それを安置するという活動が紹介されている。

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例えばこれらはネットオークションや古美術商のカタログに掲載されたもの。
これらは地道なパトロール(といってよいのか)により発見されたものであろう。
と同時に、過疎化によって知る人も少なくなったお堂などから盗難された仏像などがこのような形で売買されていくのかと思うと背筋が寒くなる。
過疎化は自分の地元でも喫緊の問題であり、対処すべき問題であるが、どのような方法をとることができるのかを考える必要がある。

実際に展示という形で突きつけられるとなかなかつらいものである。

 

 南葵文庫と紀州徳川家伝来の美術品@和歌山市立博物館

和歌山市立博物館

http://www.wakayama-city-museum.jp/document/20180915-1021press.pdf

紀州徳川家が創立した私設図書館南葵文庫の資料と散逸した紀州徳川家伝来の美術品を紹介したもの。
南葵文庫は関東大震災後に東京帝国大学に蔵書が寄贈されたが、その伝来書籍や慶喜揮毫の扁額、閲覧室で利用されていた机、いすなど当時の面影を知ることができるものが展示されていた。

個人的に興味をもったのは紀州徳川家伝来の美術品。
紀州徳川家は当主の経済観念が薄かったこともあり、3度にわたり伝来の美術品などを売立ている。
そのため、紀州徳川家伝来の美術品は散逸することとなったが、この展示ではどのような経緯で所有者が変わったのかを示しつつ紹介している。
元は一つだった資料群がバラバラになってしまう経緯など興味深い。
売立目録である程度の復原はできるのかもしれないが、やはり台帳的なものがなかったのか、残されていないのかは気になるところ*1
徳川黎明会を創立し、現在まで伝える尾張徳川家と対比せずには見ることはできなかった*2
とはいえ、紀州徳川家の伝来品を集め、紹介するという試みは大変面白かった。
図録1000円。

 

*1:例えば土佐藩主山内家では「御道具根居」という台帳が残されており、明治期の所有物をある程度把握することはできる。

*2:尾張徳川家について | 美術館について | 名古屋・徳川美術館